おじさんからのメッセージ
母親業は卒業し、優秀なスタッフに恵まれ、エネルギーが未消化でなんとなく物足りない。出口を求めて渦巻いていた私の「何かに夢中になりたいエナジー」は、主が探し物下手で、身体の中なのか心の中なのか場所は知らないけれど、くたっとなって伸びていた。
それがある鍼灸院へ行って、食養生を始めて3週間。冷えていた体が温かくなってきたな、と思ったら来た。
うおぉぉぉぉおおおおおっ。と。
椅子から立ち上がり部屋を見回した。やろうじゃないのペンキ塗り。と。
まずはメイクマンへ行ってシックハウス対応のバニラホワイトの水性ペンキと、ローラー、刷毛、養生テープを購入。すでに頭の中では、ダサい黄色のふちどりを全部塗り直して、壁は漆喰を塗ってしまおうか?それとも珪藻土にしようか?いやそもそも全く気に入らなくってプンスカと見下ろしていたあのPタイルを剥いでしまおうか・・・・」思考はペンキ塗りを通り越してリフォームの世界へ突入。養生テープを貼る前に壁の汚れや木目の縁取り似ついた汚れを拭き拭き。リビングと玄関だけで26畳はある一軒家の窓や出入り口、天井の縁取り全部だから大変な量である。まずは玄関からと塗り始めたら、これがもう楽しいのだ。塗り終わると目に見えて別世界へと生まれ変わってゆくのがやりがいにつながり止まらない。初日の夜には玄関を終わらせリビングにてをのばした。
翌朝二日目には朝の8時から土建屋さんで賑わう丸中商会へ。本格的な建材屋さんで値段も安く、工具類の量がすごい。めきめきとやる気スイッチはマックス。その日はもっと容量たっぷりのペンキと小さなローラー、サンドペーパー、脚立を購入。だって漆喰もゆくゆく塗るのだし必要だよね?と。
そして私は、職人になった。仕事を半分残したまま旅立ったペンキ塗りのおじさんが憑依したのだろう。止まらなかった。その日は友人が養生テープを貼るのを手伝ってくれた。しかしおしゃべりで中断するのも惜しいとばかりに、憑依したおじさんは指令を出してくる。
「あいあい、壁はちゃんと拭いたかね?下地を綺麗にした上に塗らないと上等にならないさ〜。まずは下地の掃除。ありがとうって言って感謝を込めて拭くんだよ」
「養生テープはしっかり吸着させないと、ほらほら、下に滲みができてしまうさ〜。綺麗に仕上げたいんでしょう?しっかり貼りなさいよ〜」
「はぁ〜、いつまで休んでいるのね〜?早く立って次の準備しないとペンキが乾いて硬くなるよ〜」
結構几帳面で働き者のおじさんは不織布でできたつなぎを着て、ペンキの飛沫をあちこちにつけながら、次は次はと動き回り、椅子に腰掛けてこのペンキ塗りが終わったら次の壁や床はどうしようか?何から始めようかと段取り&思案。
まさに寝食を惜しんでの没頭ぶり。
一人二役なのがとどめだったのか、四日目のお昼の事である。私はおじさんに追い立てられるように新しいペンキを買いにメイクマンへ。選び終わり疲れマックスだったけれど、出たついでに今晩予定の新年会第3段の買い物をして、疲労困憊。ふーっと一息、そうだこんな時には整体へ。
もみもみ揉みしだかれた後、うっとり爆睡。大将の手当は暖かいを通り越して熱いほど。腰のあたりを揉まれた時に、結構腰に来ているな、とは感じていた。感じていたのに、終わって帰ってお昼をいただくと。お茶も飲まずにつなぎを着た。作業用ミュージックオン!
さあ、とペンキにかがんだ途端に、来た。あの子が、疲労困憊の時の救世主。自動休憩にロックオンのぎっくり腰氏到来。
ぎくっとな。
体調を整えようと始めた食養生。しばらく行き場を失っていた「何かに夢中になりたい病」が一気に出てしまったのだった。憑依していたおじさんは、私のそばで苦笑い。
「あいや、そうだったさ〜。おじさん休みきれなくてねぇ。寿命が縮むよ〜、やすみなさいっておかあにも同僚たちにも言われていたさ〜。けれど、気が焦ってしまってね、次は次はって休まなかったさ〜。だからあの日ぎくっとどきっと来てしまってヘブン号だよ〜。あんた見ていて気がついたさ。おじさんもう少し休み上手にならんといけないねぇ。なんか無性にもう一回やり直したくなったから、また生まれてこようね〜。姉さん、達者でね。ちゃんと休むんだよ。上手にね」
そう言って、ハチマキをはずして光の中に消えていった丸顔赤ら顔のおじさん。今度は休み上手になって、メリハリをね。そう言いながら、私の中の働きすぎおじさんを供養した。
集中と緩和。労働にはお茶の時間。ほどほどに。
新年あけました、おめでとうございます。
今年の抱負は限界の手前で一休み。