自由

こんなに手付かずの浜辺は今や珍しい。

早起きをして泳いだ。

私とジャイちゃん。遠くにキャンプしている家族。子供は2人。

日焼けが怖いので、白い長袖のロングTシャツと短パンで泳ぐ。台風ハトの影響で波は荒め。海水はいつもより透明度やや落ち気味。水色青緑色のグラデーションが生き物のようにうねっている。美しく野生的、力強い朝。

水温は高めでいつまでも浸かっていられる。私にとって浜辺は歩くところ、拾い物をするところ。海はぷかぷかと浸かるところ。狩はしない。

しばらく浸かったあと浜辺に上がると、遠くでキャンプしていたはずの家族がこちらに歩いて来た。奥さんが困ったという顔をして話しかけて来た。

「あのー、あなたちょっとそれ隠してくれませんか?透けてチクビが見えているんですけど」

「えっ?」

見おろすと濡れて張り付いた白いTシャツにしっかり透けて見えている。

「うーん、あの。言いたいことはわかるけど、これ誰にだってついている、ナチュラルでオーガニックな身体のパーツですよ。あなたにだって、この子たちにだってみんな健やかについているじゃないですか。風呂場の鏡で毎日じーっと見てくださいよ。見慣れてくるし、なんとも思わなくなるから。ねぇ」と、子供たちに目配せをした。

5.6歳くらい、年の近い姉妹だろうか、日に焼けて健康そうな顔をくしゃっと笑顔。目を見合わせてきゃっきゃっと笑う。お互いの身体を小突き合いながら身をくねらせてお母さんの周りで追いかけっこを始めた。

そのお母さんは、面食らったような顔をして一瞬ひるんだ。

「でも、なんか破廉恥で恥ずかしいと思いませんか?裸を連想させるし、この子たちにも見せたくありません」

「ええー、こんなに広い砂浜で近寄らなきゃいいだけじゃないですか。他に誰もいないんだし。それに人の裸体は破廉恥だとは思いませんけど。そこにエロいものをあなたが連想するからそう感じるだけじゃないですか?」

常日頃感じていることをちゃんと答えた誇らしさで私の背筋は伸び、身長は1.5センチほど高くなった。

彼女はもう駄目だこの人には常識が伝わらない、という顔をしてため息ひとつ立ち去ろうとしている。

「ちょっと待ってください、奥さん。あそこにいる人はあなたの旦那さんですか?、ほらあの人」

「ええ。なにか?」

「もう、あの人さっきからすごく気になって。白い海パンがスケスケで、めっちゃもずくは見えてるしあそこも丸見え!あなたは見慣れているかもしれないけど、ちょっと困りますよ。遠くにいるならまだしも…」気になるとどうしても見てしまう性に耐えかねて、平常心が乱れた私は、どうにかしてくれと前のめりで手を振り回して訴えた。

「えっ?!あなたのチクビは良くて人のは駄目なんですか?」目がまん丸の母さんとチビたち。

「私の身体にはあれはついていないから見慣れなくて困るのよ!早くしまってくださいな!」

 

そんなやりとりを1人妄想した。

1人と一匹の浜辺は自由だ。


2017年08月23日 | Posted in | タグ: Comments Closed 

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