犬女子


サマーカットのジャイ子との旅3日目の朝。

数年前まで誰もいない浜辺でリードを解くと彼女は糸が切れた凧のように走り去っていって、呼んでも長いこと帰ってこなかった。心配して探しに行くまで放浪し、途中で元気だよ、と顔を見せてはまた藪の中に消えてゆく。そうしてだいぶん経ってから何食わぬ顔で戻ってきたものだ。彼女がまだぽぽのお嫁に来たばかりの幼少期には、うちの娘は小さかったしアウトドア好きの連れがいてよく一緒に自然の中で遊んだものだ。その時にはそんなことはなくて、いつも私たちのそばにいたジャイ子。キャンプもしたしドライブをして浜辺へもよくいった。その連れ合いがいなくなるのと同時に娘は県外へ、私はShoka:を立ち上げていそがしくなった。

それからの6年間以前ほど彼らと過ごす時間は減り、遊ぶ時間はごくわずか。いつも心の中でごめんごめんとつぶやいていた日々。なぜ呼んでも戻ってこなくなったんだろう?そう思っていたら、ある日彼女と視線がなかなか合わないことに気がついた。これはいけない、信頼が育っていない証拠だと、それからはご飯の時、撫でる時に小さな顔を両手で挟んで話しかけながらじっと目を見つめるようにした。

ほどなくして、彼女は私の目を再びちゃんと見るようになり、外で放した時も呼ぶと嬉しそうに帰ってくるようになった。

今回の旅では、広い広い砂浜で彼女はなかなか私から離れない。散策しているな、と思い浜辺に布を敷いてごろんと横になると、いつのまにか側にいて私の顔をべろべろ舐めて、砂を掘り出す。おいおい、砂がかかるよ、ジャイちゃん。

泳ぎに行くと、荷物の番をし、腰を下ろすと舐めにくる。私の傍らでじっと見つめたり、撫でて欲しがったり、又しても穴を掘り出したり、なんともいそがしい犬女子。このつぶらな目でいつだってじっと見ているのですよ。寝ている時と食べている時以外のほとんどを。

ああ、たまらなく可愛い。あと何年このいじらしい瞳を見ていられるだろう。いつも待たせてごめんね。犬は主人を待つ生き物だから、常にこんな罪悪感が胸にある。いかんいかん、お詫びより、今を楽しもう。だからこうしてジャイちゃんと久しぶりの海ロッジなのだった。

さて、ジャイちゃんが待っているからそろそろおしまい。

私たちの浜辺へ参りましょう。


2017年08月24日 | Posted in | タグ: , Comments Closed 

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